リン・民明

そう言えば、先日こんな事を言われてしまったので、お約束をやらなければいけない気がしてきました。むぅ、あれはもしや噂に聞くNUGA-CEL……!


NUGA-CEL!


古来より衣服という物は人の身体を守るものであり、人間が文化を構築する途上で獲得した道具の最たる物である。近年では衣服とは着る人物を装飾し表す物でもあり、また着衣をしていない状態というのは社会通念的に受け入れられ難い状態である。
だが衣服という物は着る者の動きを阻害するものであり、また身体を覆う事によって自然界との氣の繋がりを遮断してしまうものでもある。氣というのは格闘家にとって何より重視する力であり、故に古来より、邪道と言われながらも衣服の着用部位を少なくする事により強さを求める流派や個人は後を絶たなかった。脱げば脱ぐ程強くなる裸紳活殺拳や変態仮面のクロスアウッ、最近ではボンデージ衣装にしか見えない神護如意天馬羽衣を装備した珊底羅神護流古武術のウマ仮面等、その例を挙げれば枚挙に暇は無い。ドラゴン紫龍が良く聖衣を脱ぐ事によって自らの小宇宙を高める事は良く知られている。格闘家に身体の多くを露出させた格好をする者が多いという点を見ても、この思想が格闘界に根強く残っている事を想像するのは容易である。
NUGA-CELとは本来「脱枷流」と書く言葉の国際的な表記であり、脱枷流とはその字の通り「枷を脱ぐ」というそれらの流派や強くなる状態それ自体の総称である。ちなみに「CEL」とは細胞(cell)の事を指しており、衣服を脱いで強くなる事を細胞分裂で成長する事に見立てているのは言うまでも無い。
この場合衣服を着用しない事の利点としては、動きが軽くなる、自然界の氣と合一し易くなる、守りを薄くする事により自らの眠れる力を引き起こす等簡単に思い付くだけでも多く有るが、ここで見落としてはいけないのは、露出を増やす事による羞恥心の増加により、火事場の馬鹿力にも似た背水の力を引き出す事だろう。この力は特に潜在的に女性に強いとされ、物語等に見られる女性の戦士が危険な状況にも係わらず露出度の高い格好をしている事が多いのは、その効果を知っているからに他ならない。怪物相手にお色気が通用するのかとは良く見られる揶揄であるが、それは素人目による全く筋違いな指摘である。漫画等で入浴や更衣を見られた普通の女性がその相手を殴り、殴られた者が数メートルもの距離を吹き飛ばされるというシーンは良く見るものであるが、それがこの潜在的な脱枷流の力を描写しているものである事は言うまでも無い。
注意が必要なのは、これが誰にでもできる事ではないという事である。修行をしない素人が単純に服を脱いでも簡単に強くなるものではないし、羞恥心が勝れば逆に動きを阻害される事も有る為、運用には細心の注意が必要である。また公共の場で脱枷流の修行をしていると場合によっては逮捕される危険が有る為、修行の場にも注意を払う必要が有る。かの伝説の暗殺拳北斗神拳の継承者は脱ぐという行為をしなくても自らの気合で着衣を破くといわれるが、その域に達するには相当の修練を要すると思われる。
近年完成したマスクドライダーシステムでは、キャストオフという自ら装甲を脱ぐ行動により、クロックアップという強力な能力を発動させる事ができるが、最新技術に通じる理論が既に数千年の昔より知られていたという事は、驚嘆の他はない。
余談だが、ゲーム「ウィザードリィ」で忍者が何も装備をしていない状態でレベルが上がっていくと防御力であるACが下がっていく(※ACは数値が低い程高い能力を表す)が、ACが防御力であると同時に攻撃の当たりにくさでもある事を考えると、装備が無い状態を見られたくがない為に目にも留まらない程の速度で動いているという事を表現しているというのは、疑いようも無いところであろう。
なお、現代でも恥ずかしさが極まった状態を「顔から火が出る」というが、それがこの脱枷流を極めた者が高まった氣により身体から炎を発したという伝説から来たものかは不明である。


                       ――民明書房刊「裸で何が悪い」

予定の無い日曜の朝って暇ですよね。







Q.(アニ○×)脱衣シミュレーションRPG『NUGA-CEL!』を手がけたのは、河野一二三率いるヌードメーカーである